おっぱいに魔法をかけた日

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大人になることは、自分の心に魔法をかける方法を、体験から得ていくことなのかもしれない。自分のおっぱいがかわいいと思えるようになった。

おっぱいに魔法をかけた日

■「中肉中背なんだって?」

隣のクラスの男の子と初めてセックスした翌朝、学校に行くと、廊下で男の子たちに囲まれて「中肉中背なんだって?」と言われた。ああ、彼が言ったんだ、とすぐにわかる。

中肉中背か。たしかに太っても痩せてもいなかったけど、おっぱいが大きければ、「スタイル良いんだって?」と言われたのかもしれない。いや、そもそも抱いた女の体型を学校で言いふらすなんて最低だし、そんなやつ怒ったり嫌いになったりすればよかったんだけど、当時の私はそうはできなくて、ああ、おっぱいさえ大きければなあ、とただ悲しくなった。その後、彼が大きなおっぱいを持つ女の子と公然と浮気したので、やっぱり世界はおっぱいなんだ、と思った。

私のそれは、とくべつ小さいというほどでもないんだけれど、張りがなくて、緩慢で、少女的だ。学校のもちつき大会で配られたおもちのように、白くてとりとめのないものがふたつ、くっついている。

大人になったらメリハリのあるおっぱいに成長するかと思っていたけれど、結局あのころからほとんど様相が変わらないままだ。

■魔法のかけ方を知っていく

大学生になり、アルバイトでもらったお金を握りしめ、ファッションビルで買い物をするようになった。中でもときめいたのが下着屋さんだった。

白やピンク、オレンジ、水色。夢みたいな色のグラデーション、こまかく紡がれるレースの模様。少女のころにおもちゃ屋さんで『おジャ魔女どれみ』のステッキを買ったときと同じ気持ちになった。

魔法の呪文は「ピリカピリララ のびやかに」。自宅の全身鏡の前でひとり回転する。いいじゃん。薄いピンクのふわふわのブラジャーに詰められた白いもち肌が少女のようでかわいい。これは大きなおっぱいの人とは違う、かわいさじゃないの。

誰にもわからなくてもいい。お気に入りの下着をつけて駅まで歩く朝は、最高だと知った。以来、べつに高いものでなくても、「かわいい!」とときめいた下着だけを買うようにしている。これは自信を持てるひとつの魔法なのだ。

大人になることは、おっぱいが大きくなることではなくて、自分の心に魔法をかける方法を、体験のなかで知っていくことなのかもしれない。

■いくらお前に揉まれたって

大学を卒業して会社で働くようになり、よくおじさんたちからセクハラを受けた。

「もっとおっぱい大きければなあ」「俺が揉めば大きくなるよ」「ちゃんと男と遊んだほうがいいよ」

はあ、遊んでますけど。このおっぱいで。ええ。あと今日めちゃくちゃかわいい下着つけてますんで。

「揉むくらいなら下着代ください」

そんな感じで返し続けていたらあまり言われなくなったけれど、やっぱり、おっぱいに絶大な価値を置いている人はけっこう存在するらしい。

しかも男の手でおっぱいを大きくしてあげられると信じている人も多い。恩着せがましいね。心の魔法は誰にでもかけられるわけじゃないよ。好きな人や好きなものといるときの自分自身だけなんだ。

■コンプレックスはおっぱいだけの問題ではない

体にまつわるコンプレックスはおっぱいだけの問題じゃないし、もっと言えば女性だけの問題ではない。男性だって同じだと思う。

初めてベッドの上で服を脱がしあうとき、怖いのは私だけじゃないはずだ。ボクサーパンツを脱ぐときに照明を落としたがる人もいるし、「俺、太ってるんだ」などと言う人もいる。

時間をかけて男性と親密な関係になったり、体を重ね合ったりしていくなかで、私たちがおっぱいで勝手に他人に評価され、悩んできたように、彼らもまた男性器をはじめとした各部位のことで悩んでいるんだな、ということがわかった。

コンプレックスはおっぱいだけの問題ではない。いつだって、私はにっこり笑って「大丈夫」と言う。いま、この世界には、あなたと私、ふたりしかいない。他者と比べるからコンプレックスなのであって、ふたりしかいなければ、大丈夫でしかない。

自分の体と相手の体を擦りあわせる以外にないんだ。私はおっぱいでそれなりに傷ついてきたからこそ、こうして人の体を受容することができていると思う。

■ベッドの上では褒めて呪う

言葉はときに呪いになる。言われたその場では気にならなくても、あとでじわじわときいてくる。それはその日の夜かもしれないし、1年後の同じ季節かもしれないし、次の恋をしたときかもしれない。

「中肉中背なんだって?」「もっとおっぱい大きければなあ」

あれからもうずいぶんと月日が流れたけれど、いまだにお風呂に入りながら思い出して憂うつになる夜もある。

どうせ呪うなら、コンプレックスをえぐる呪いではなくて、コンプレックスを褒めて呪い合いたい。

「大丈夫」「最高だ」「かわいいね」「絶対大丈夫」

そう言われ続けていると、言われ慣れてしまって、あとで恋が終わったとしても、いつまでもその人のことを思い出してしまうんだ。

私の小さなおっぱいをかわいいと言ってくれた人。俺の分厚い唇をきもちいいと言ってくれた人。そうやって、好きな人を適切に褒め呪うという技を最近使えるようになった。

私たちはどんな体をしていたって、好きな人の忘れられない人になれるはずだ。

■私は今日も最高だ

かわいいブラジャーをつけることが白魔術だとしたら、ベッドの上で相手の体を褒めることは黒魔術というところ。自分に、好きな人に、魔法をかけるので日々忙しい。魔女みたいだ。

まあ、正直に言えば、私だって今でも大きなおっぱいがほしいし、かわいい顔もほしいし、ほっそりした脚もほしい。それはそうなんだけど、それでも。

今日もベッドから起き上がり、この夏お気に入りのテラコッタのブラジャーをつけ、鏡の前ではにかむ。ピリカピリララ のびやかに。大丈夫。私は今日も最高だ。あなたも。

Photo/タカハシアキラ(@crystal_style)

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雨あがりの少女

セックスは舞台。いつも世界の背景に溶けてる地味な私でも、ベッドの上では主役になれる。日々ツイッターでセックス&オナニーポエムを書いてます。

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